干ししいたけ、「天日干し」と「機械乾燥」の違い

太陽光

その独特な風味や保存性の高さが人気の干ししいたけですが、干ししいたけには「天日干し」と「機械乾燥」の2種類があります。

現在はその大半が機械乾燥ですが、昔ながらの天日干しも一部では販売されています。
そして天日干しの干ししいたけは、一般的に機械乾燥のものよりも値段が高い傾向にあります。

確かに機械乾燥よりも、昔ながらの天日干しと言われた方が何となく品質が高そうな気がしますが、実際のところ天日干しと機械乾燥はどのような違いがあるのでしょうか?

徹底比較!「天日干し」と「機械乾燥」

しいたけ

しいたけの鮮度

まずは、天日干しと機械乾燥の差を鮮度の面から見ていきましょう。

生のしいたけは鮮度が落ちるのが早く、消費期限は冷蔵庫で「1週間程度」と言われています。
常温保存の場合は気温によって差が出ますが、まず1週間は持ちません。

長期の保存が可能な干ししいたけを作るには、しいたけ内部の水分量を10%程度まで減らすことが重要になりますが、天日干しでここまで水分量を減らすには、よほど天候に恵まれても1週間、曇りや雨の日で上手く乾燥が進まなければ2週間以上かかることも珍しくありません。

対して機械乾燥の場合は1~2日もあれば完全に乾燥させることが可能で、しかも天候に左右されることもありません。

一般的に物が乾燥する場合、まず外側から水分が抜けていき、その後ゆっくりと中心部の水分が抜けていきます。
しいたけの場合、全行程の80~90%の水分を抜くのと残り10~20%の水分を抜くのに同じ時間がかかると言われていますので、内部の水分は乾燥の後半までそれなりに高いことになります。

天日干しで一週間以上もかけて乾燥させていては、鮮度が日に日に落ちていくのは当然の話で、乾燥が早い外側はともかく水分量の高いしいたけ内部の鮮度は、機械乾燥に比べれば間違いなく劣っていると言えます。

干ししいたけの旨味成分

しいたけを干すことで生まれる独特の旨味は、「グアニル酸」という成分によるものです。
そしてこのグアニル酸は、熱によってしいたけ内部の分解酵素が活発に働くことで生産されます。

この分解酵素が活発に働くには60℃以上の温度が必要であり、機械乾燥の干ししいたけは旨味を高めるために熱を加えて乾燥させています。

対して天日乾燥では60℃まで温度が上がることはまずありませんので、グアニル酸は機械乾燥ほど多くは生産されません。

干ししいたけの「旨味」の面で見た場合でも、天日干しが機械乾燥を上回ることはまずあり得ないと言えるでしょう。

干ししいたけのビタミンD2

「しいたけを天日干しするとビタミンD2が増える」ということはご存知でしょうか。
ビタミンD2というところまでは知らなくとも、天日干しのしいたけは栄養価が高くなるということは多くの人がご存じかと思います。

これがしいたけを天日干しする最大の理由なのですが、「完全天日干しのしいたけが機械乾燥よりも優れている」と誤解される大きな要因となっているのも事実なのです。

しいたけを天日干しすることで生まれるビタミンD2は、しいたけに含まれる「エルゴステロール」という成分が紫外線にあたることで変化したものです。
ビタミンD2はカルシウムの吸収を助けてくれる重要な栄養素で、天日干しにすることで生のしいたけの十数倍にまで増加します。

ただこのビタミンD2は「紫外線に当てれば当てるほど増える」といったものではなく、天日で「2~3時間」も干せば十分ということも分かっています。
せいぜい半日も天日干ししておけば、完全天日干しのもとの遜色ない量までビタミンD2を増やすことができるのです。

しかも、このエルゴステロールからビタミンD2への変化は乾燥後でも有効で、完全機械乾燥の干ししいたけであっても食べる前に2~3時間天日干しにしておけば10倍以上にビタミンD2の量を増やすことが可能なのです。
実際に機械乾燥の干ししいたけも、乾燥後に数時間天日干しして栄養価を高めているものがほとんどで、最初から最後まで天日干しにするメリットはほとんどないのです。

さらに言うならば、天日干しで増えたビタミンD2はずっとそのままというわけではなく、保存しているあいだにどんどん減少していきます。

干ししいたけは基本的に保存食なので長期間保存することも珍しくありません。
せっかく完全天日干しの干ししいたけを買っても、長期間保存していたら食べる頃にはビタミンD2はほとんど元に戻ってしまっているかもしれないのです。

天日干しで破壊される栄養素

先ほど天日干しでビタミンD2が増加するという話をしましたが、天日干しは良いことばかりではありません。
中には天日干しにすることで、減少してしまう栄養素もあるのです。

生しいたけに豊富に含まれるビタミンBは体の代謝を助けてくれる重要な栄養素ですが、このビタミンBは紫外線で破壊されるため、長時間天日干しにすると大きく減少してしまいます。

天日干しによって増加するビタミンD2もいつまでも増え続けるものではないので、機械で乾燥させた後に必要最低限の天日干しを行う方が、ビタミンBも減少することなく総合的な栄養面で優れているということになります。

基本的に完全天日干しのメリットはない

  • 機械乾燥は短時間で乾燥できるので鮮度が落ちにくく、天候に左右されずに確実に乾燥できるので保存性も高い。
  • 旨味成分である「グアニル酸」も天日干しよりも高くなる。
  • 天日干しによって増える栄養素は数時間の天日干しで十分であり、長期間の天日干しで破壊される栄養素もある。

これらの理由から、基本的に天日干しが機械乾燥より優れている点はほとんどないことが分かっていただけると思います。

欠点といえば乾燥に使う機械の燃料代くらいですが、天日乾燥によるコストの増加(乾燥時間が伸びることによる作業時間の増加や生産性の低下)を考えると一概に機械乾燥が劣っているとも言えません。
むしろ完全天日干しにこだわることのデメリットの方が高いのではないでしょうか。

実際に店頭で販売されている天日干しの干ししいたけは、機械で乾燥の大部分を済ませ仕上げに栄養価を高めるために数時間天日干しにしたものがほとんどです。
現在、完全天日干しの干ししいたけがほとんど作られなくなったのは、単に手間がかかるからではなく「機械乾燥の方が良質な干ししいたけができるから」に違いありません。

きちんと理解して選んで欲しい

結果として完全天日干しの批判のようになってしまいましたが、別に完全天日干しにこだわっている生産者さんに文句を言いたいわけではありません。
単に機械で乾燥させたものを「手抜き」、手間暇かけて天日で乾燥させたものを「本格派」と考えられがちな誤解を解きたいのです。

実際に完全天日干しを売りにしている生産者さんの売り文句には、「現在はほとんどが機械乾燥ですが、私は昔ながらの完全天日干しにこだわっています」とか「手間暇かけて手作業で行っています」といった言葉が多く見られます。

直接「完全天日干しは機械乾燥より品質が高いです」とまで言っている生産者さんはごく一部ですが、一般の人が上のような売り文句を見たらそういった印象を受けることが多いのではないでしょうか。

生産コストの関係からか、天日干しの干ししいたけはどうしても機械乾燥よりも値段が高くなりがちです。
天日干しと機械乾燥の違いを理解したうえで購入しているのであれば問題ありませんが、誤解の上で高い天日干しを購入しているのであれば購入者側からしてみれば不利益になります。

干ししいたけを購入するときは、天日干しと機械乾燥の違いを充分理解したうえで納得して購入してもらえれば良いと思います。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    86年生まれの酒が飲めない九州男児。 家庭菜園が好きすぎて自分の畑を手に入れるためだけに農家になった。 5年前に新規就農し、現在は野菜のネット販売でお金を稼ぎながら家庭菜園を楽しむ「JAに野菜を売らない農家」。 現在家庭菜園16年目。